Jewel-like Life

宝石鑑定士がときめくジュエリーとスタイリングをご紹介します

哀悼を込めて…カール・ラガーフェルドとジュエリー

2月19日にファッションデザイナーのカール・ラガーフェルドが85歳で亡くなりました。今回は哀悼の意を込めて、彼とジュエリーについてご紹介したいと思います。

 

  

 

“モード界の皇帝”突然の訃報

彼の訃報を知った瞬間、大きな彗星が地上に落ちて、直径50kmのクレーターがぽっか

り空いたような、そんな衝撃を受けました。

1月22日のシャネルのオートクチュール・コレクションを彼が初めて欠席したとの報道

を目にした時、嫌な予感がよぎったのです。その時には既に体調を崩していたのかもし

れません。

 

唯一無二の才能

1983年、クリエイティブディレクターに就任して以来、シャネルのデザインを手掛けて

いたのは有名な話。低迷していたシャネルを見事に復活させた彼の功績は絶大です。

フェンディと自身の名前のブランドのデザインも担い、さらに他ブランドや企業とのコ

ラボもこなしていたのですから、まさに超人的に仕事をこなしていました。

 

彼がデザインするようになってから、シャネルはまるで春を迎えて花がいっせいに咲き

誇るような、明るくフレッシュな印象が強くなったことを思い出します。

わかりやすくいうと、ブランド全体が”若返った”というのでしょうか。

単純なエレガントさではなく、どこかに現代的な、ストリート的といわれるエッセンス

が入っています。ガブリエル・シャネルの築いたスタイルをリスペクトしながら、大胆

に革新していく。そこが最大の魅力であり、彼の才能の高さを示していたように思いま

す。

 

彼自身がファッション・アイコンに

一時は体重100kg超えといわれるほどでしたが、2000年になんと42kgの減量に成功しま

した。

エディ・スリマンがデザインしたスキニーなディオールのスーツを着たい!という思い

からだったそうです。スタイリッシュにイメージチェンジした姿は話題となりました。

 

ファッションにあまり興味のない方でも、彼独特の完成された“スタイル”は一度見たら

忘れられないと思います。

白髪のポニーテール、ハイカラーのシャツ、黒のテーラードジャケット、サングラス、

指なしグローブがトレードマーク。

そしてジュエリーが彼の体の一部のように最高に似合っていたのが印象的でした。

 

カールの愛したジュエリー

ジュエリーはクロムハーツが大のお気に入りだったそうです。

リングはすべて所有していると豪語し、

「男が着けてもいいジュエリーはクロムハーツくらい」と言ったとか。

ゴシックとロックがバランスよくミックスされたデザインはいかにも彼が好きになりそ

うなテイストです。

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ブローチがお好き

ジュエリー好きとして見逃せないのは彼の着けているブローチです。

1980年代からネクタイにピンズ(小さいブローチ)をつけている姿は見られましたが、

2000年を過ぎた頃から、ネクタイの中央に大きめのブローチを着けるのが彼の定番にな

ります。

最近みかけなくなりましたが、おじさま達が使っていたネクタイピンではないですよ。

女性が着けてもおかしくない、たくさんの石(おそらくダイヤモンド)がセットされた

ブローチです。

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さらにロングネックレスやペンダントを重ね着けすることも多くなります。

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見るたびに違うものを着用しているので、コレクションは相当な量でしょう。

デザインはマルタ十字のクロスやスパイダーなどモチーフものから、地金だけのモダン

なハート型までさまざまです。

 

少し調べて見たのですが、どこのブランドのものかは不明でした。

わかり次第追記したいと思います!

 

 

アンティークも好きだったのではないかと推測します。

19世紀自然主義を思わせる、葉っぱや花を表現したものや、おそらくムーンストーン

使ったアールヌーボー的デザイン、さらにはアール・デコ調のシャープな幾何学デザイ

ンまで、デザイン傾向は実に幅広いのです。

 

たくさん持っているとはいえ、度々登場するアイテムもあるので、お気に入りのものは

使い回していたようです。

 

ブローチは、彼の装いに欠かせないものでした。

決してジュエリーだけが浮くことなく、着けこなしていますよね。

ジュエリーとファッションは切り離せないもの、と教えてくれているようです。

  

ところで、リング、ペンダント、ピアスに比べて、ブローチってあまり注目されないア

イテムだと思いませんか? 

実はお洒落な人はブローチ使いがとても上手。そのことに気づいてから、私はブローチ

が俄然気になるようになりました。

カールもブローチ愛用者ですし、これからもっとブローチを楽しむ人が増えるといい

な、と思います。

 

彼の名言から

たくさんの名言を残しているのですが、その中の一つをご紹介します。

「心のどこかで、私は生きるレジェンドになる、そういう運命なんだと信じていた」

さすがです、カール様。お言葉通りの人生でした。

きっと天国でもまわりをハッピーにするクリエーションを続けることでしょう。

 

最後にトム・フォードのインスタグラムから、貴重な2ショットです!

www.instagram.com

「向井山朋子」展 - 非日常空間でピースフルなひと時

気がつくと自宅と職場を往復する毎日。それはそれで平和な証拠ではありますが、やっぱり日常に変化や刺激も必要ですよね。ちょっとしたスパイスを求めて、銀座メゾンエルメスフォーラムで開催中の「ピアニスト 向井山朋子」展にいってきました。

 

 

今までにない展覧会

向井山さんはオランダ・アムステルダムを拠点に置き、国際的に活躍しているピアニストでありアーティスト。フライヤーには

“たったひとりの観客のためのコンサートや、舞台に鑑賞者が上がることで成立するパフォーマンスなど、従来の形式にとらわれない制作に挑戦する”

と書かれています。

 

今回の展覧会(インスタレーションに近い)もかなりチャレンジングな構成です。会期の2月5日から28日まで、毎日50〜120分のピアノパフォーマンスが行われ、前後の1時間を含めた数時間だけオープンするのです。しかも演奏開始時間が毎日1時間ずつずれていきます。私が訪れた12日は18時オープン、19時演奏スタート、22時クローズでした。翌日は19時オープン、20時演奏スタート、23時クローズといった具合です。

 

突如あらわれた異空間

仕事帰りに急いで会場に向かうと、幸いなことに演奏中でも入場できました。

メゾンエルメス8階のギャラリーに足を踏み入れると、そこは何台ものピアノがランダムに転がり、重なり、空中に浮遊する異空間となっています。

 

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メゾンエルメスは世界的な建築家、レンゾ・ピアノによる設計で、正方形のガラスブロックに覆われた美しいビル。ガラスブロック越しの銀座の街のネオンは、ほんのりとした明るさで、柔らかく暗がりのピアノたちを浮かび上がらせていました。絵本にでてきそうな不思議な光景です。

 

スポットライトに照らされた1台のグランドピアノに、向井山さんの姿がありました。静まりかえった会場で、ピアノ周りの人たちは床に座って演奏に聴き入っています。私を含め、立ったままの人もいます。こんなスタイルで演奏を聴くのも珍しいですよね。学校でピアノを弾く先生を囲む生徒たちみたいで、演奏者との距離の近さがアットホームに感じられました。

 

音楽でメディテーション

演目は毎日変わるようです。会場入り口に書かれたメモには

曲名:カント オスティナート(Canto Ostinato)

作曲:シミオン テン ホルト(Simeon ten Holt)

と書かれていました。

 

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短いフレーズが繰り返され、少しずつ変化していくので、最初はいつまで続くのか、途中で退屈しないかちょっぴり不安に駆られたのが正直なところでした。ところがメロディーの心地よさとゆらめくような繊細な変化が楽しく、ずっと聴いていたくなります。窓ガラスに水滴がゆっくりと集まって小さな流れになる様や、雪解け水が小川に注がれる春の情景、あるいは大きな雨粒が大地を打ちつける夕暮れ、そんな“水”に関わる景色が浮かんできました。音楽でメディテーションしたような、つかの間の静謐な時間でした。

 

全く知らない作曲家だったので調べてみたところ、シミオン(シメオンが一般的のようです)・テン・ ホルト(1923-2012)はオランダの作曲家で、“独特のミニマルミュージックの作風で知られる”とのこと。(Wikipediaより抜粋)

未知の世界に気づき、興味が広がるのもこんな機会があってこそだと思いませんか?

 

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向井山さんのオーラ

画像の通り、きりりとした目力が印象的な向井山さん。ファッションデザイナーの稲葉佳恵っぽいな、と思いました。意思の強そうなところはオノヨーコに似ています。

夜会巻きにしたグレイヘアに真っ赤なルージュがよく映えていました。この日はデコルテ周りにビジューのついた、サテンのピンクのドレス姿。演奏が終わり、にこやかに周囲に会釈をすると、私のすぐ目の前を通り過ぎたのです。演奏中の存在感からは想像できないほど小柄で、引き締まった腕と背中についみとれてしまいました。大人の魅力、色気がある女性には憧れてしまいます。

 

最後にお詫び

ちょっとしたショートトリップを味わうような体験が、銀座の中心で、しかも無料で叶う。というわけで絶賛おすすめ中と言いたいところですが……

 

今後会場オープン時間が夜中から深夜、早朝と移行しつつあるので、電車でいくのは難しいと思います(汗)。もっと早く紹介できればよかったのですが……申し訳ないです。

スケジュールなど詳しくはこちらでご確認を。

www.maisonhermes.jp

早起きが得意なかたには2月23日(土)あたりをおすすめします。この日は会場オープン5時、パフォーマンス開始6時、会場クローズ9時です。

早朝の銀座を歩くのも非日常感があっていいかもしれないですよね。

なんて苦しいフォローでした!

 

ダイヤモンドと仲良くなるために必要なこと

ダイヤモンドは女の子のベストフレンド

マリリン・モンローの歌で有名なこのフレーズ、全く同感です。ダイヤモンドはどんな色のお洋服にも合わせやすいですし、キズがつきにくいので日常使いにもそれほど気を使わなくて大丈夫。それにカラーストーンを使ったジュエリーと比べると、デザインのバリエーションも豊富にあります。その輝きをみるだけでパワーをもらえるし、つけている女性もキレイにみせてくれる。ベストフレンドといえるでしょう。とっても頼もしいダイヤモンドをぜひ味方にしたいですよね?そのためには忘れてはならない重要なことがあるのです。

 

衝撃のダイヤモンド

大事なことを思い出させてくれたのは、とある勉強会に参加した時のこと。初めは壇上の先生の方に向かって、参加者全員が整列して座って話をきいていたのですが、途中から椅子を移動して、参加者2人ずつ対面してお互いにインタヴューをすることになりました。

 

私のお相手はメーカーに勤務している40代の女性でした。ビシッと黒いスーツを着ていて、滑舌のいい話しぶりからはバリキャリ系の雰囲気が漂っています。インタヴューをしながら、つい身につけているジュエリーに目がいってしまいます。指には銀色に光るシンプルな結婚指輪。首元には小さい石を6本の爪で留めた、これまたシンプルなペンダントをつけています。

何か白っぽいようなグレーっぽい石がついているけど何だろう?結構な至近距離で、まじまじと見ているのがバレないように観察すると……。なんとその小さな石は、ダイヤモンドだったのです!なぜそのダイヤモンドがグレーっぽく見えたと思いますか?それは石の表面に皮脂がついて、さらに埃などが付着していたからなのです。

 

これほどひどいダイヤモンドをみたのは久しぶりで、内心「きゃーっ!!」とムンクの『叫び』状態になりました。あふれるような力強い輝きはなく、彼女の動きに合わせてクラウンファセット(カットされた面)から反射される光のシャープさをみて、ダイヤモンドだなと判断したのです。変わりはてた姿に哀れすら感じました。

 

特に石の裏側に汚れがたまりやすいとはいえ、こんなに汚れて曇ったダイヤモンド、私ならとても放っておけません。と偉そうなことを言いながら、結局彼女に何も伝えられずじまいだったことを大後悔しています……。

 

ダイヤモンドは完璧ではない

 ダイヤモンドには油になじみやすい性質があります。クラウン側(石の上部)はクロスで拭けばある程度の汚れは取れますが、パビリオン側(石の下部)は石座(石を支える地金)で覆われていたりして、なかなか拭くこともできません。少しずつ油分と埃がたまり、石の表面が曇っていきます。その結果、ダイヤモンドの最大の特徴である輝きを失ってしまうというわけです。

 

 また、劈開性という弱点もあります。表面にキズはつきにくいのですが、原子配列の構造上、割れやすい方向があって、衝撃にはそれほど強くありません。先端が尖ってカットされた部分も、強くぶつけたりすると欠けてしまいます。タフなイメージの強いダイヤモンドですが、やっぱり大切に扱わないと!と思いますよね。

 

それではダイヤモンドの美しさを保つにはどうすればいいのでしょう?

 

お手入れ方法その1

帰宅してジュエリーをしまう前に、汗や汚れをジュエリー用クロスで拭く。

ガネクロスに使われるマイクロファイバー、乾いた柔らかい布でも大丈夫です。どのようなジュエリーでもやっておいて損はない基本のお手入れです。

 

お手入れ方法その2

方法その1で取りきれない汚れを落とすには、超音波洗浄機が簡単で便利ですが、ジュエリーに優しいこの方法をお薦めします。

  1. 小さな容器にぬるま湯を入れ、中性洗剤を適宜溶かす。
  2. その中にジュエリーを20〜30分浸す。
  3. 柔らかい毛の歯ブラシを使って、石や地金についた汚れを取る。特にジュエリーの裏側からも丁寧に。
  1. 水でよくすすぎ、乾いた柔らかい布で水分を拭き取って乾かす。すすぐ際に水道に流してしまわないよう、容器を下に置いておくと良いでしょう。

 

お手入れ方法その3

細工の細かいもの、エメラルドやオパール、パールなどデリケートな石がセットされているものは購入したお店に依頼するほうが安心です。大抵はサービスで受け付けてくれます。爪のゆるみに気づいた時、石が動いているかも?と思った時も、即購入したお店に相談してくださいね。

 

まとめると…

ダイヤモンドと仲良くなるには、定期的にお手入れをして、綺麗な状態を保つことが大切です。お手入れすると愛着もわいてきますし、何より方法その2でお手入れした後のダイヤモンドは浄化されたように清らかになります。つい「あースッキリ」とつぶやきたくなるはず。ダイヤモンドの極上のオーラをまとうことで、幸運だって呼び寄せられるかもしれませんよ。ぜひ一度お試しくださいね。

プロフィール

初めまして。

Sasha(サーシャ)と申します。私の簡単なプロフィールをご紹介いたします。

 

 

 

幼少期

男の子のように活発で、よく迷子になっては知らないおばさんに「僕、お名前は?」なんていわれていたそうです。ダンゴ虫を口に入れそうになったり、親をヒヤヒヤさせていました。

 

小学生時代

自宅近くに残っていた里山に行ってはケモノ道を探検したり、恐竜の名前をそらんじるほど夢中になったり、7つ上の姉と殴り合いのケンカをしたり、女の子らしさはありませんでした。生物や理科が好きで科学者になるのもいいかもと思っていた時、小学生向け雑誌・学研の『科学』の付録だった紫水晶アメシスト)に心を奪われます。これが宝石との運命の出会いだったかも。

 

中学・高校生時代

女子校に入学。中一の時は先輩(もちろん女性)に憧れすぎてファンレターをロッカーに入れてしまったという、恥ずかしい思い出があります。

高校生になると、ラリックやミュシャをはじめアートが大好きに。目黒の庭園美術館がお気に入りの場所。この頃からラリックのジュエリーやアンティーク・ジュエリーに使われている様々な色の宝石、デザインの豊かさや繊細な細工に惹かれていきました。

 

大学生時代

美術館で監視役やもぎりのバイトを2年近く続ける。熱気ムンムンの会場内で来場者を監視しつつ、強烈な睡魔と戦いながらレンブラントやモネなどの大作を飽きるほど眺めるという貴重な経験をする。

 

社会人時代

時は就職氷河期学芸員の憧れを捨て、とある企業の事務職として就職。このままでは脳みそが腐ってしまいそうだと思いながら、安定したOLライフを3年ほど過ごす。彫金を学んでいた友人にふと、「こんな資格を取れる学校があるよ」と渡されたのがGIA(米国宝石学会)のパンフレット。宝石について勉強できるなんて!と目の前がキラキラに。一念発起し3ヶ月後には退職。東京校へ入学します。半年間友人ともほとんど会わず、たぶん人生の中で一番ストイックに勉強に励み、無事卒業したのでした。

卒業とほぼ同時に運よく某アメリカのジュエリーブランド企業に採用され、その後も海外ブランドや日本の宝飾品製造・卸会社など、いくつかの会社で接客販売から商品企画・開発、PRまで従事。ジュエリーに関する仕事をオールラウンドに経験してきました。

ブログを始めようと思った訳

素敵なジュエリーと出会って感動した時、この素晴らしい存在をお知らせしたい!と常々思っていたのが一番大きな理由です。知名度は海外のメジャーブランド(TとかCとかBとかね)が突出していますけど、世の中にはまだまだ優れたジュエラー(宝石商)やクラフトマン(宝飾品を作る職人)がたくさん存在しています。これからジュエリーを買おうかな、というかたの参考になれば嬉しいです。

もう一つは、お手入れも含めて、ジュエリーと上手に付き合う方法をお伝えしたい、と思ったからです。ジュエリーは洋服と違って何年も、ものによっては何世代も受け継がれるものです。タンスの肥やしにせずに、身につけることでジュエリーは輝きを増しますし、着ける人の魅力を引き立てるのです。スタイリングのヒントもお伝えできればと思います。

 

最後に

「ジュエリーを扱う仕事をしています」というと「綺麗なお仕事でいいですね」という好意的な反応の一方で、「へえ〜」(よくわからないな…)という反応をされます。そうですよね、高価そうなブランド店はちょっと入りにくい。かたやふらっと入ったら店員さんに売りつけられそうな怪しげな雰囲気のお店もありますよね。このブログで、何気なく抱いている疑問やあらぬ誤解を少しでもとくことができたら幸いです。