Jewel-like Life

宝石鑑定士がときめくジュエリーとスタイリングをご紹介します

ヴィスコンティの『山猫』は宝石に似た輝き

イタリア名門貴族の生まれの映画監督、ルキーノ・ヴィスコンティ

イタリアの至宝と呼ばれる彼の作品は、没後40年以上経った今でも唯一無二の輝きを放

っています。中でも傑作として名高い『山猫』4K修復版が上映されていると聞き、観に

行ってきました。数年ぶりに観た『山猫』は美しすぎました……。

 

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大まかなあらすじ

時代は19世紀イタリア統一戦争のさなか。主人公は貴族社会の終焉を感じながら、時代

の変化を受け入れることを選ぶシチリア貴族の当主、サリーナ公爵(バート・ランカス

ター)。目をかけているサリーナ公爵の甥、タンクレディアラン・ドロン)は時代を

敏感に読み取り、革命軍に加わる。やがてタンクレディは新興ブルジョワの娘、アンジ

ェリカ(クラウディア・カルディナーレ)と恋に落ち、公爵は2人の結婚を後押しする

るのだった。

 

“本物”の持つ力

ヴィスコンティ作品の美しさは、爛熟した貴族文化を肌で感じていた彼にしか描けない

ものです。

例えば映画の冒頭。カメラはサリーナ公爵邸の窓へと近づき、レースのカーテンがシチ

リアの乾いた風にたなびくさまが映し出されます。部屋の中が透けるほど薄く、繊細な

柄が織り込まれたレースの上質さ。それだけで、そこは庶民の家ではないことが伝わっ

てきます。

彼の美意識がよく表れているのが、45分間続く豪華絢爛な大舞踏会のシーン。36日間も

かけて撮影されたそうです。集まった客人たちのレースやシルクをたっぷり使った豪奢

な衣装、ろうそくの灯ったシャンデリア、館中に飾られた絵画や花瓶、クリスタルの

グラス……細部にまで“本物”であることにこだわったことは一目瞭然。

当然ですがCG一切なしです。CGを否定するつもりはありませんが、画面から伝わる

重厚さと説得力が違うのです。

 

俳優たちの視線と仕草にクラク

数年ぶりにスクリーンでこの作品をみて改めて気づいたのは、俳優たちの魅力でした。

バイセクシャルであったといわれるヴィスコンティは、男性に対する審美眼も鋭く、

配役はどれもはまり役で完璧!身のこなしが非常に洗練されているのも、

ヴィスコンティの指導というか、力量によるのではないかと想像します。

 

まずはタンクレディ役のアラン・ドロン。かつて日本でも美男子(今ならイケメン?)

の代名詞的存在として大人気でした。この作品では、良くいえば野心的、悪くいえば

上昇志向で調子のいい青年役です。

端正な顔立ちに澄んだブルーの瞳で見つめられたら、ぞくっとします。軍服姿でかかと

を鳴らして敬礼する姿なんて、カッコよさが人間離れしていて、バービーの恋人、ケン

みたいです。

 

印象的なのは内戦で負傷し、眼帯をつけて登場するシーン。

素敵な男性が眼帯をすると、妙に色っぽく感じてしまうのは私だけでしょうか。

例えば伊達政宗とかキャプテンハーロックとか(古くてすみません)。

どこか冷酷そうなのに気になってしまうところは、主演した『太陽がいっぱい』の

主人公、トム・リプリーに通じるものがあります。

 

アラン・ドロンもいいけれど、実は私がオススメしたいのはサリーナ公爵を演じたバ

ート・ランカスター。アメリカ人であり、アクション映画に出演していた、という経歴

は意外でした。この作品での堂々とした存在感と、威厳をたたえた姿はイタリア貴族

そのものです。

革張りのソファーに深く座って足を組む、葉巻にゆっくりとマッチで火をつける、アン

ジェリカの頬に手を添えて話しかける、そうした所作の一つ一つにも余裕と気品がにじ

みでているのです。

 

彼もアラン・ドロンと同じブルーの瞳なのですが、キラキラした輝きよりは、憂いのほ

うが色濃く感じられます。当主としての責任と苦悩、時代の変化に対する諦観、家族へ

の愛、孤独といった様々な感情がその瞳からは読み取れます。

 

哀愁を漂わせるランカスターと、血気盛んなドロン。

2人のコントラストは、老いと若さ、貴族とブルジョワ、旧体制と新体制、といった

相反するもののメタファーなのかもしれません。

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小悪魔なアンジェリカ

そしてもう一人、アンジェリカ役のクラウディア・カルディナーレのことを書かずには

いられません。他の女優さんたちがかすんで影もないくらいに小悪魔ぶりが際立ってい

ます。

 

驚いたのは、アイラインで囲んだ三白眼の大きな瞳を上目遣いにして、タンクレディ

みつめながらゆっくりと下唇を噛む仕草!

同性の私でも無性にドキドキしましたよ。もし私が同じことをしたら、間違いなく

頭大丈夫?と心配されるか、下品な女扱いです。

 

ネコのような野性味のあるコケティッシュなアンジェリカは、カルディナーレでなけれ

ば成立しなかったでしょう。

 

さらに心をざわつかせたのは、婚約者であるタンクレディの目の前で、サリーナ公爵を

ダンスに誘うシーンです。甘えるように懇願しているようで、

「私と踊ってくれるわよね」と言わんばかりに訴える目力の強さ。

公爵は断れるはずもなく、タンクレディは嫉妬で顔を歪めるのでした。

その後の公爵とアンジェリカがワルツを踊る場面は、ハイライトの1つといえるほど

耽美的です。

 

細部までこだわり抜き、贅を尽くした映像の美しさはもちろんですが、美男美女を堪能

できるのもこの作品の醍醐味なのです。

 

ジュエリーは本物?

タンクレディがアンジェリカに婚約指輪を渡すシーンがあったので、どんな指輪なのか

興味津々でみていました。

それは意外とシンプルな、ダイヤモンドが取り巻いたサファイアのリングでした。

エンゲージリングはダイヤモンド、というイメージが強いと思いますが、特に決まりは

ありません。お好きな宝石でいいのです。

サファイアには、誠実、信頼、慈愛といった意味があります。ヨーロッパでは神聖な石

として聖職者の冠や指輪に用いられてきました。

石の大きさとリングのデザインは、ダイアナ妃からキャサリン妃に受け継がれたリング

と似ていました。

ご参考までにどうぞ! 

www.25ans.jp

 

もう1つ印象的だったジュエリーは、舞踏会でアンジェリカがつけていたイヤリング

です。

アクアマリンに似た、爽やかなブルーのペアシェイプカットの石が耳元で揺れて、

純白のドレスにとても似合っていました。

これらを含め、映画で使われたすべてのジュエリーが本物だったのかどうか、

映像からではなんとも判別できません。

でもね、ヴィスコンティのことだから本物だった、と信じたいところです。

 

最後に

日本での契約満了により、上映されるのはこれが最後の機会となるそうです。

東京では恵比寿の東京都写真美術館ホールにて、3月31日まで。

『山猫』4K修復版はブルーレイが販売されていますが、ぜひ映画館の大きなスクリーン

で、圧倒的な美しさに打ちのめされる快感を味わっていただきたいです!

 

topmuseum.jp